航空自衛隊の試験飛行操縦士(テストパイロット)

岐阜県各務原市には、航空自衛隊唯一の試験飛行部隊である、飛行開発実験団があります。

みなさんご存じの通り、F-2やC-2といった新規製造航空機の試験を担当している部隊です。

最近では、三菱リージョナルジェット(MRJ)やX-2(先進技術実証機)の随伴機(チェイス)を行っている部隊としても有名ですね。

試験飛行を行っているパイロットは、試験飛行操縦士(テストパイロット)と呼ばれており、その資格取得には厳しい勉強とフライトスケジュール、そして試験飛行操縦士としての分析解析能力が要求されます。

 


飛行開発実験団

飛行開発実験団(ADTW:Air Development Test Wing)は、航空機やミサイル等の航空装備品に対する試験等を実施する航空自衛隊唯一の部隊です。

日本国内で開発された各種の装備品だけでなく、海外からの導入装備品も対象にして、その実用性を確認するための試験や評価、運用に関する基礎的データを取得することが主任務です。

また、防衛省技術研究本部(TRDI:Technical Research and Development Institute)が行う各種の技術試験に対する支援や装備施設本部の依頼による領収飛行等も行う部隊です。

飛行開発実験団は、通常の航空団とは異なり、飛行隊は1個になります。

また、誘導武器や電子戦に特化した部隊を所有する点が航空団とは異なります。

 

テストパイロット

試験飛行操縦士、すなわちテストパイロットは、飛行実験群の飛行隊に所属する操縦士を言います。

彼らは、テストパイロットを専門に養成する課程である、試験飛行操縦士課程を修了した操縦士で、航空自衛隊が保有する全ての航空機※の乗務経験があります。

※ 一部乗務しない場合もあります。

また、飛行隊は試験飛行を行うだけでなく、前述の試験飛行操縦士課程の教官でもあり、実務と教育を両方行っている事になります。

試験飛行操縦士になるには、配属を希望するというのが一般的ですが、場合によっては名指しによる選抜もあります。

また、新規の機種導入や開発に際しては、当該機種の運用に秀でた操縦士が航空団や飛行教育団より選抜される場合もあります。

私の場合は、初等練習機であるT-3が機種更新を迎え、新たにT-7(当時はT-Xと呼称)を開発することになり、初級操縦課程を実施している第11,12飛行教育団より初級操縦教育を担当している操縦者と指定され、試験飛行操縦士として転属しました。

ですので、正規の試験飛行操縦士課程は修了しておらず、短期課程を履修しています。

 

試験飛行操縦士課程

約1年間の課程で、飛行隊に配置後すぐに入校する課程になります。

課程とはいっても、学校教育のように授業ばかりではなく、飛行訓練も行われます。

飛行訓練は厳しく、初めて乗る機体であっても、スケジュールは前日に発表されるため、全く知らない(事前に準備はしますが)機体を操縦するというプレッシャーがあります。

また、単に飛行すれば良いという訳ではなく、ある種の試験飛行を行うという内容で、航空機の操作手順だけでなく、特性や運用についても準備が必要になりますので、睡眠不足は常です。

また、各種の航空機や試験方法を実証しつつ、1年を通して、「新型航空機を開発」するという仮定で訓練が行われます。

対象となるのは、中等練習機T-4で、T-4が製造されたばかりという前提で、新機種に関する試験飛行を全て行い、その有効性を確認し、実用に耐える(任務に使用できる)ことを実証しなければなりません。

試験飛行操縦士課程の最後は、T-4が実用に耐えうるかどうかの報告までがセットになっており、まさに「航空機開発の全て」を1年間で習得します。

このため、飛行開発実験団のT-4は、601号機から604号機までが製造(試験)時と同じカラーリングと装備で置いてあるのです。

 

試験飛行操縦士としての空飛ぶたぬき

もともと、航空機開発に従事してみたいという考えもありました。

ですので、T-7開発の話が来た時は、「はいはいはい!!」と元気よく手を上げて・・そのままあっさりと配属が決まり、転勤となりました。

1年という短い期間で、実用試験をこなすことの重大さをよく分かっておらず、当時の職場にいた試験飛行操縦士OBさんより、「過労死しない程度にがんばれw」と言われたのを覚えています。

実際の試験はともかくとして、設計段階からはじまり、できあがった機体の修正や特性把握、手順の作成や緊急状態模擬など、やることは山のようにあり、途方に暮れた想いがあります。

まだマシだったのは、「外装品がない。」ことでした。

外装品があると、全ての形態において試験が必要となり、1つ増えただけでも試験の量は倍になるからです。

T-7の試験は、航空機の形状がT-3に酷似していた関係で、一部が省略(シミュレーターや計算でまかなう)することが出来ました。

それでも、エンベロープ(飛行可能範囲)内の全ての飛行を行う必要はあったので、とにかく手間とデータ解析に追われた想い出がほとんどです。

空中でのエンジン停止や停止後の空中再始動(リスタート)ももちろん試験に含まれており、「自らの手でエンジンを停止させる。」というメンタルを試されるような試験もありました。(再始動しなかったら、どうしようとかw)

 

試験飛行操縦士の試験飛行手当

全てのエンベロープ内、場合によってはその外側の検証まで行う操縦士ですので、危険手当ならぬ、試験飛行手当というものがあります。

新規製造の航空機を飛ばして、誰も実証していない飛行をやってみる・・・。

さて、みなさんどれくらいの手当なら、そのフライトをやりますか?

お金で命は買えませんが、少なくとも支えるべき人を支えることはできる。と考えますが、それほど高くはないのですよ。

ちなみに、T-7の試験飛行の手当は、数百円/日でしたwww

 

試験飛行とは

簡単に言うと以下の2種類になります。

  • 実用試験
  • 運用試験
  • その他装備品の試験

実用試験は、航空機が所望の性能を有しているかの試験で、マニュアルやチェックリスト等の作成も含まれています。

運用試験は、航空機がその任務を遂行するのに必要な能力を有しているかの試験です。

一般的に、実用試験は飛行開発実験団が行い、運用試験はその運用を行う部隊が特別チームを構成して行うことが多いのです。

T-7の場合は、飛行開発実験団で実用試験を行い、航空機の基本的なマニュアルの作成やチェックリストの作成、各種手順や性能諸元の決定を行いました。

その後、防衛省に正式採用されると同時に、「T-7」という名称を正式に与えられ、部隊(第12飛行教育団:山口県防府市)に機体を移動

 

そのまま、運用試験チームが構成され、学生教育のための課目選定や開始諸元、操縦練習用のマニュアルが作成され、約1年後にテストケースとして課程学生の教育を行いました。

結果的に私は実用試験から機体の運搬、運用試験、そして最初の課程学生教育まで携わることができましたので、T-7飛行時間は世界一(当然ですよねw)となり、「T-7の神様」と呼ばれた時代もあります。

「手足のように使えるか?」という問いに唯一「はい」と答えられる機体がT-7なんですすよ。

 

航空機の開発は15年~20年に一度の仕事

これは、当時の試験飛行操縦士OBからの言葉です。

航空自衛隊の操縦士として定年まで勤務しても、新規航空機の開発や導入に携われる可能性は、恐らく1回あるかないかでしょう。

私は、単純に「新しい飛行機に乗ってみたい!」という思いで手を上げましたが、思えばこんなチャンスは滅多にないことでした。

これから航空自衛隊の操縦士を目指す方、もしチャンスがあれば是非とも新規航空機の開発や導入に携わって欲しいと思います。

キツいですよw

寝られませんよw

家に帰れない日も沢山ありますよw

でも、誰よりもその機体を熟知し、そしてエキスパートになれるチャンスでもあります。

試験飛行操縦士、テストパイロット・・・いかがですか?

 


今でも、T-7というちっちゃくてかわいい航空機の開発に携われたことに感謝をしています。

そして・・・「T-7に関する知識と操縦技術なら、誰にも負けない!!」

というささやかな自信を、「今も」持っていたりしますw

+.゚(*´∀`)b゚+.゚ィィネ!!と感じたらシェア

2 件のコメント

  1. 周芳(すおう)says: 返信

    感慨深い文章でした。
    毎日あたまの上をパラパラ飛んでるTー7飛行機を、こんなに意識の中に取り込むなんて、たぬきさんを知る以前は思ってもいなかった。

    願わくばたぬきさんにTー7を操り防府の空に上がってもらいたい。
    あーしたりこーしたり、こんなこともできるよって、ブンブン飛んでもらいたい。

    私はそれをいつまでも眺めていたい。

    夢です(*^_^*)

  2. HARUKAZEsays: 返信

    一見シンプルに見えるT-7でも、実際の運用までには果てしない道のりなんですね・・・
    これが両翼・胴体両サイド・センターと搭載品ポイントだらけ
    双発エンジンで、飛行可能範囲も広いイーグルだと思うと…
    ガクガク(((;゚Д゚)))ブルブル

    けど自分も機械扱う仕事してる身として
    「これの扱いと知識だけは、自分は絶対負けない!」
    って言えるものがあるのは本当カッコいいと思います。
    素敵です(* ̄▽ ̄)d

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